- 不可解な日常体験をした。
その日の日中
私は具合が悪くて独りで自宅で寝ていた。
自宅は庭付きの日本家屋。
そこに呼び鈴を鳴らし
声が聞こえた。
声の感じは初老の男性といったところだろうか。
六十代後半だろうか。
申し訳無いと思いつつ
体が重く
また急用の降り掛かりそうな身の上ではとてもなかった為
だんまりを決め込んでいた。
すると
まさかなことに
お邪魔しますと北塀の木戸が開き
家屋の東へ立ち入って来る音がした。
- 寝室は庭へ面した南側。
昼間なのでレースのカーテンを引いてあるだけの不安な状況の中
足音が東から東南へ侵入して来る。
足音は東南の日除けに置いてあったコンポストの前に立ちどまり
蓋を開け
中の腐葉土を確認している・・。
さてこの後・・・
息を呑む瞬間だった。
不意に
カラスの一群が東南へ集り
大音声が緊迫の空気をつんざいた。
- なぜか騒乱している。
騒乱は不自然なほど長く続いた。
近所迷惑なのではないか。
長屋に独りで暮らして八年になる。
八年の間
類似の騒音は一度として聞いていない。
やがて
静々と立ち去る足音を私は聞いたのか
それとも聞こえなかったのか
とにかくもその頃合い
漸次カラスの音は止んだ。
- 辺りには事前とむしろ不釣り合いな静寂が再び。
またもまさか・・・。
最悪の予感を去来させながら重い体を杖で支え
庭の東面へと赴いた。
いつもと変わらないコンポスト。
蓋を取って覗いた中にはやはり
いつもと変わらない腐葉土がそのままあった。
- 数日して一つ近所に
いつもと変わったことがあるのに気が付いた。
長く見知った年輩者が一人
近所から消えたという。
うら悲しい出来事だ。
人は終局へ際し
どこへ行き
何が一体どうなるのだろう。
そんな造化
生滅の真理に関し
何か想いを馳せさせる数日だった。
長屋の先代から親しかった
よく椿を塀外から採っていた年輩の人は
今ももうお見かけすることが無い。
いつか誰でも解るのかも知れない。