- 不可解な話。
俺はじいさん子で、就学前には共働きの両親が仕事に出てる間、いつも祖父に面倒見てもらってた。
じいさんは自転車に俺を乗せ数kmの行動範囲で友人達の家に遊びに行き、時々、隠居した仕事の注文も知人限定で受けたりする。
他にも買い物や釣りや山菜採り、寺、神社など。
中でもじいさんの兄の住む本家へは頻繁に訪れた。
俺もほぼ毎日のように来る家なので、その日の「不可解」は本当に不可解だった。
家を出、着くのはいつも3時前くらい。座敷に上がり込み、手土産をお茶請けに大人達は話し込む。
じいさんの兄と奥さんは二人暮らしだったんだが、その日はもう一人、皺くちゃの婆さんがいた。
歳でいえば俺のひいばあさんと同じくらいか?もっと上?とにかくその場の大人達よりずっと老けていて皺々で小さく、真っ白の髪を結い上げ地味な着物を着ていた。
婆さんの前には菓子もお茶もなく、話し掛ける者もおらず、ただ座ってニコニコとこちらを見て頷いている。
このお婆さんはだれなんだろう?お茶はいらないのかな?
疑問が浮かんでも盛り上がってきた話を邪魔するのは気が引け、ただ婆さんから目をそらせず、じっと構える。
すると座卓の下に隠れてた婆さんの右の手がゆっくりと上がる。人差し指を立てて俺の後ろ、斜め上を指し示すような格好になった。
- 思わず振り返ってその方向を見ると、縁側の端のあたりに違和感がある。
そろそろと座敷を抜けて見に行くと、ただの天井だった所に四角い黒い穴があき、そこから梯のような階段が下りていた。
婆さんを見ると、相変わらず指差したままニコニコ頷いている。大人達は気付いていない。俺は意を決して上った。
するとそこには天井が高く広い部屋があり、ほんのり明るく、部屋は板張りで、青草のような匂いがして、奥には祠のようなものがこしらえてある。
ここで記憶が途切れている。
気付いた時には自分の家の一階の、じいさんの布団に寝かされていた。起きて居間へ行くと、ああ起きたの、遊び疲れたでしょ、人に心配かけて。と母が言う。
外は暗く、家族はもうとっくに皆夕飯を済ませており、あの婆さんに会ってからは5~6時間は経過していた。
本家でじいさん達が気付いたとき俺はどこかに消えていて、本家の庭か近くの林かで遊んでいるのではないかと探したそうだ。
実際に見つかったのは、そこから数百m離れた神社の境内。俺にその記憶はないし神社がどこにあるのかも知らなかった。
いなくなっていた時間は一時間もないので、大した騒ぎにはならなかったらしい。
こうやって書くと特徴もないありがちな神隠しの話だと我ながら思うのだが、
後日再び本家に行ったときに階段はどこにも見当たらなかったし、尋ねても、こんな所に階段があった事はないと言われてしまった。
上手い事ゴネて二階を見せて貰ったが、別の箇所から普通の階段で上るようになっていた。例の部屋もなかったし、天井の高さも普通。
いまだになんだったのかがわからない。婆さん何者だ。
以上、俺の体験した不可解な話。