- 101 :525[sage] :2006/02/05(日) 15:49:25 ID:TRocJXVz0
- 家は昔質屋だった、と言ってもじいちゃんが 17歳の頃までだから私は話でしか知らないの
だけど結構面白い話を聞けた。田舎なのもあるけどじいちゃんが小学生の頃は幽霊は勿論、
神様とか妖怪やら祟りなど非科学的な物が当たり前に信じられていた時代でそう言った物
を質屋に持ち込む人は少なくは無かったそうだ。
どういった基準で値段をつけていたのかは分らないが、じいちゃん曰く「おやじには霊感
があったからそう言う神がかった物は見分ける事ができたんだ」と言っていた。
「なきにんぎょう」
店からおやじと客の話声が聞こえて来た。チラッと覗くと一組の夫婦が見えた友禅の着
物、パリッとしたスーツにキッチリ整った鬚、こいつは金持ちだ!と感じた喜一はチョコ
でも貰えるのでは!?とすかさず茶を用意し、おやじの後ろからそろりと「粗茶ですが」
と茶を差し出した。
普段、用もないのに店をうろつくなと言われているためこうでもしないと自分の存在を
アピール出来なかったのだ。喜一の腹の中が読めているおやじは眉を寄せて邪険にしたが
跡継ぎの勉強だと言えば客受けも良かったためおやじはそれ以上何も言えず居座ることに
成功した。
客が売りに来た商品は立派な日本人形だった。着せ変え人形にされていたのか立派な着物
が何着もあり、素人目でも高価な事がわかった。
しかしおやじは「好かんな」と一言。喜一はピクリと反応した、おやじの(好かん)と言
う言葉は(良く無い)と言う意味などが含まれ、駄目だしや説教のさいに使われたからだ。
おやじは人形から何か感じ取ったのか、執拗に人形の出所などを聞いていると観念した
客は重い口を開いた。
ある日蔵を整理しているとが人形が出て来た、いつの物か分らない人形を蔵のゴミと共に
捨てたそうだ。次の日の朝起きると仏間に人形が置かれ、何とその人形は涙を流していた。
驚いた夫婦は寺に持って行こうとしたが人形がまたぽろぽろと泣き出し嫌がる、燃やす事
も捨てる事も出来ないが恐くて家にも置いておけず、途方に暮れここへ来たのだった。
おやじは少し考えたが結局その泣き人形をタダ同前で買い取った。 - 102 :525[sage] :2006/02/05(日) 15:50:03 ID:TRocJXVz0
- 喜一には商売事はやはり興味はなく、何の収穫も無かった上におやじに店じまいを手伝わ
されむくれていると、「明日お払いに住職んとこ行って来るから店番頼むぞ」とおやじに
言われ喜一はさらにげんなりした。「そんなに良くない物なんか買うなよ」と反論すると
「そんなに悪くも強くも無いんだがな…よく解らんもんを売るのは性じゃねぇ、念には念
って事だな」おやじはそう言うと部屋へと戻り喜一は明日のイワナ釣りを断念し人形を恨
めしく思いながらその日は眠りについた。
その日の夜喜一は夢を見た、あの人形が自分に泣いて縋るのだ。何を言っているのかは分
らないが泣きながら何か頼んでいる感じだった。
朝、喜一は夢の事をおやじに話すとおやじも同じ夢を見たそうだおやじは夢で人形と会話
したらしい。「普通はこけしを使うからな金持ちはやる事が違うな、気付かなかった…」
そう言うとおやじは店に入り人形の着物を剥ぎだした。「見ろ、背中に文字が書かれてる
だろう?」喜一は消えかけている文字を目をこらして読んだ、長々と前置きの後、亡き子
を偲んで…トヨ。と書かれていた。
喜一の住む辺りでは水子の霊を供養するときこけしが使われた、生まれて来る筈だった
子の名前を書いたこけしを1年仏壇に置き(その間子を作ってはいけない)その後お払い
をして燃やすのだ、そのこけしを御悔やみこけし、供養こけし、亡きこけしなどと呼ばれ
ていた。そう、あの人形は泣き人形ではなく、亡き人形だったのだ。
おやじの話では人形には母親の念が憑いていた。子供を流産した上にもう産めない体にな
ってしまった女は亡き人形を燃やさず、ずっとわが子の様に可愛がっていたのだ。その残
留思念が人形に残り、燃やされる事を嫌がったのだった。
「寺にもって行かれると燃やされると思ったんだろう…昨日の晩、燃やしたり捨てたりし
ない事を約束に寺でお払いを受けると言ったから もうこの人形が泣く事は無いだろう」
おやじはそう言うと人形を持って寺へと出かけて行った。
その後人形はすぐに買い手がついた。おやじは趣味の悪い金持ちに人形を燃やしたり捨て
たりしない事を約束させて高値で売り、亡き人形は喜一の前から姿を消したのでした。
ありえない場所、もう会えない人、今ではない時間、 幼い頃の不思議な記憶、 見えるはずのないもの。 そんな、怖くはなくても奇妙な経験を書き込むスレッド、 「不可解な体験、謎な話~enigma~」のエピソード置き場です。