ヒグラシ

571 :525[sage] :2006/01/11(水) 08:41:47 ID:AqisYW3Y0
家は昔質屋だった、と言ってもじいちゃんが 17歳の頃までだから私は話でしか知らない
のだけど結構面白い話を聞けた。
「夕暮れの壷」
おやじは鑑定士の仕事もしていて依頼の品が大きな物の場合はお客の家まで出かけるた
め、喜一じいちゃんはその間店番をさせられた。
店番と言っても目利きが出来るわけでは無いので売りに来たお客は明日にしてもらい、買
いに来た客の相手だけ しかし田舎の質屋に客なんてほとんど来ない…ところが珍しく客が
大きな荷物でやって来た、(まいったこりゃ売りか、鑑定の客だ)と思い帰ってもらおう
とすると、ふろしきをドンっと置き出て来たのはりっぱな朱い壷だったボコボコしていて
荒々しく、模様かと思えば木々の絵が黒い上薬で描かれていた。

おやじは居ないと言うと太った客は語りだした。
客は趣味で骨董を集めている方で、この壷は無名の作家の作品で価値のある物では無い
のだけれど人によっては全財産を投げ打ってもいいと言い出す人がいればゴミ同前と言う
人もいて、どう言った物なのか詳しく知りたい、もし良く無い物ならどうすれば良いか聞
きに来たそうだ。
フーンとまったく壷に興味の無い喜一は話を聞きながら壷の模様を目で追っていた…
すると壷から何かが聞こえて来た…。

つづく

572 :525[sage] :2006/01/11(水) 08:42:21 ID:AqisYW3Y0
客はペラペラ語りだし止まらない「…それでね、私は後者側でこの壷の価値が解らないん
だけど、前者の間でかってに呼ばれている名前があってね…」喜一は「ヒグラシ!?」と
言うと客はビックリしていた。「そうなんだ、ヒグラシと呼ばれているんだ!何で解った
んだい?」客に聞かれたが喜一にはハッキリと聞こえた、壷をジーっと見つめるとヒグラ
シの鳴声が聞こえ、まさに夏の夕暮れそのものだった。
「お客さんコレ駄目だよ!!良く無い物だ、人の魂を吸い取る壷だお払いしなくちゃいけ
ない、危険だからうちで引き取るよ」喜一は思わず嘘をついてしまった。
喜一もこの壷に魅せられてしまった、何としても手に入れたくなったのだった。慌てた客
は壷を置いて行ってくれた。
喜一は壷を眺めながらとても良い事をしたと思い(あんな価値が解らない奴が持っている
よりウチにあった方がよっぽどいい、それにタダでこんないい物を手に入れられたんだか
らおやじも喜ぶだろう)とほくそ笑んでいた。
ところが帰って来たおやじに喜んで壷の事を説明すると大目玉を食らった。
「バカやろうウチは鑑定屋だぞ、信用が第一なんだそんな事して商品手に入れてたんじゃ
誰が買うってんだ!!物の価値を決めるのが商売、客の価値何て誰がつけろって言った!!」
と怒鳴られ結局壷は持ち主に帰されてしまった。

じいちゃんはもう一度ヒグラシに出会えたなら、全財産投げ打ってもいいと言っていたが
戦争になって行方は解らなくなってしまったそうだ。

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